1980年代初頭、突如として日本のスクリーンに現れた一人の男。そう、コイサンマンことニカウさんです。
映画『コイサンマン』(旧題:ミラクル・ワールド ブッシュマン)は、アフリカのカラハリ砂漠に暮らすサン族の日常に、文明の利器が紛れ込んだことで起こる大騒動を描いたコメディ作品。1982年、日本の映画年間興行収入で堂々の1位に輝いた、まぎれもない昭和の怪物映画です。
物語のきっかけは「コカ・コーラの空き瓶」一本
セスナからポイ捨てされた、たった一本のコーラ瓶。これを拾ったニカウさん演じるカイは、「神様がくれた便利な道具だ!」と大喜び。しかしその一本の瓶が、部族内に独占欲や争いを生んでしまいます。
「これはいかん、地の果てに捨てに行こう」——そうして始まる旅が、爆笑の連続でありながら、ひとつの深い問いを突きつけてくるのです。モノが増えると、人は幸せになるのか?
「ブッシュマン」から「コイサンマン」へ——昭和から令和の変化
当時は「ブッシュマン(藪の人)」というタイトルが使われていましたが、現在は『コイサンマン』に変更されています。「ブッシュマン」という呼称が差別的な響きを含むと判断されたためです。現在は彼らの自称に近い「サン族」や、言語体系に由来する「コイサン」という呼び方が一般的。昭和のゆるやかな時代から、現代のコンプライアンス意識への変遷を、このタイトルひとつに感じますねぇ。
ニカウさんという「奇跡のスター」
この映画の最大の魅力は、なんといっても主演ニカウさんの存在感。あの屈託のない笑顔、カッカッカッと鳴らす独特のクリック音(吸着音)を含んだ言葉。純粋無垢な姿に、当時の日本人は心をわしづかみにされました。
- ギャラは牛?: 1作目の出演料はわずか数百ドル。そもそも「お金」という概念を知らなかったニカウさんは、それを風に飛ばしてしまったという伝説があります。続編では家族のために「牛」と「水道付きの家」を条件に契約したとか。なんというリアリティ!
- 日本でも大人気: ソニーのCMに出演し、バラエティや歌番組にも引っ張りだこ。当時のテレビ界は、彼を「癒やしキャラ」としてこれでもかと起用していました。
大人になって染みる「文明への皮肉」
子どものころは笑って見ていたのに、大人になって見返すと、この映画はなかなかに鋭い文明批判です。
- 「持たざる幸せ」を体現する彼ら
- 都会人にはただの空き瓶が、モノの少ない地域では便利な道具になる
- 一本の瓶が争いの種になる——モノがない方が幸せなこともある
スマホの通知に追われ、Amazonの段ボールに囲まれて暮らす令和の私たちにとって、「神様の忘れ物」を捨てに行くニカウさんの姿は、案外笑い事ではないのかもしれません。
ニカウさんのその後
映画シリーズを終えたニカウさんは故郷に戻り、農業を営んでいました。2003年、薪を拾いに出かけた先で静かに息を引き取ったと報じられています。その生涯は最後まで「自然と共にあった」と言えるでしょう。
あの頃の映画館へ
公開当時、映画館のロビーにはコーラ瓶を持って屈託のない笑顔を見せるニカウさんのポスターが貼られていました。今の映画はCGで何でも作れますが、あの「本物の笑顔」が持っていたパワーには到底及ばない気がします。
もし押し入れの奥に当時のパンフレットや録画したVHSが眠っていたら、ぜひ引っ張り出してみてください。そこには、コーラ一本で幸せになれた(あるいは不幸になれた)、純粋だったあの頃の私たちが映っているはずです。
かっぱ隊長でした。
昭和40年代生まれの何の取り柄もない爺いです。
関西出身の東京在住。
懐かしいもの、怖いものが大好き。

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